今回は、「国民皆歯科健診制度」についてご紹介します。
皆さんは最後に歯科医院に定期健診に行ったのはいつか、覚えていらっしゃいますか？
歯の痛みやお口のトラブルがないとつい後回しにしてしまいがちな歯の定期健診ですが、むし歯や歯周病を予防し、お口の健康を守るためには定期的な健診が欠かせません。
昨年、日本の全国民に対して毎年の歯科健診を義務づけるという制度が導入されました。
なぜ「国民皆歯科健診制度」が生まれたのか？
政府は令和7年度を目安に「国民皆歯科保健制度」の導入を検討しています。では、なぜこのような制度が検討されるようになったのでしょうか？
・歯の健康に対する意識の低さ
残念ながら、日本人の歯の健康に対する意識は高いとは言えません。1歳半と3歳の乳幼児と、小学校～高校までの学校歯科検診は義務付けられているものの、それ以外の世代（※歯に有害な化学物質やガスを使用する職業の人を除く）については各自治体の制度に一任されています。健康推進法で歯周病対策も定められているため、40歳からは10年に1度の歯科健診を実施している自治体も多く見られますが、実際にこの制度で歯科健診を受診する人の割合は全国平均で1割にも満たないという調査結果もあります。つまり、幼少期から「定期的に歯科健診を受ける」という習慣が身についていないことが、国民全体の歯の健康に対する意識の低さに結びついてしまっていると考えられます。
・歯周病罹患率の高さ
歯科健診の受診率が低い一方、歯周病の罹患率は高く、45歳以上では約半数ともいわれています。細菌の塊である歯垢（プラーク）が主な原因であり、歯と歯ぐきのすき間（歯周ポケット）が深くなる、歯ぐきが赤みを帯びて腫れたり出血する、口臭が悪化するなどの症状があります。さらに症状が進行した場合には、歯槽骨という歯を支えている骨が溶け、歯が抜け落ちてしまうこともあります。歯を失う原因の第一位が歯周病であることからも、歯周病を予防することがお口の健康を守るために非常に大切であることはお分かりいただけるかと思います。
このような背景から、「国民皆歯科保健制度」の導入が検討されるようになりました。ただ、歯周病の恐ろしさは歯を失うリスクが高まるだけでなく、全身疾患と深い関わりをもつところにあるといっても過言ではありません。
歯科疾患と全身疾患との深い関係
歯周病やむし歯といった歯科疾患が、糖尿病や心血管疾患、骨粗しょう症といった全身疾患に影響を及ぼすということは、既に様々な研究が行われエビデンスとして確立しています。その一部をご紹介します。
・糖尿病
糖尿病は、インスリンと呼ばれるホルモンの分泌異常により、血糖値（血液中のブドウ糖）が慢性的に高くなる疾患のことです。長期化することで、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中といった疾患が併発しやすくなり、その進行も著しく促進されることが分かっています。歯周病も糖尿病の合併症の一つとされており、特にヘモグロビンA1cと呼ばれる血液中の数値が7%を越えると、歯周病の悪化も早まるともいわれています。したがって、糖尿病管理の一環として、歯周病を治療することも非常に重要であると考えられています。
・誤嚥性肺炎
肺炎は、日本人の死亡原因の第三位となっており、その一つが誤嚥性肺炎です。誤嚥性肺炎とは、嚥下機能障害による誤嚥（食べ物や唾液などを誤って気道に吸引すること）から発症する肺炎のことです。食べ物や唾液と一緒に歯周病原菌が肺に侵入してしまい、それによって炎症を起こします。実際に、誤嚥性肺炎からは歯周病原菌が多く検出されるという研究結果もあり、歯周病の進行は誤嚥性肺炎のリスクも高めるということがいえるでしょう。
・低体重児出産
歯周病と全身疾患の関連があるのは高齢者ばかりではありません。妊娠中は女性ホルモンの分泌が亢進することにより歯肉炎を起こしやすくなりますが、歯肉炎が悪化して慢性的な歯周病になると、低体重児出産（早産）との関連性が報告されています。歯周病が進行すると、歯周組織中のプロスタグランジンE2という陣痛などを促す作用のある物質が増加することが分かっており、それが子宮を収縮させたり子宮頚管の拡張を促進させ、早産を引き起こすリスクが高くなると考えられます。
歯の健康とQOLの向上
上記でお話ししたように、歯科疾患と全身疾患には深い関係性があることからも、お口の健康を守ることが全身の健康を守ることにも繋がります。食事を美味しく楽しんだり、人とコミュニケーションをとったり、心から笑うことはQOL（Quality Of Life:生活の質）の向上に繋がりますが、それには歯の健康が欠かせません。
まとめ
今回は「国民皆歯科保健制度」についてお話ししました。
この制度を通して私たち自身も歯の健康を守ることへの意識を高め、定期的に歯科を受診する習慣を身につけていきたいですね。
歯の定期健診をご希望の方は、お気軽にかけまちコミュニティー歯科までお問い合わせください。
